姑への御機嫌伺いほど、嫁としてしらけた気持になるものはない。
なんでこんな女に神経を使わなきゃならないんだ? 答えは永遠に見つからないのに、そこを無視すると日常生活が破綻してしまうリスクさえ含んでいる。それが悲しいかな…姑への御機嫌伺いの大切さだ……。と、その前に――
とにかく姑は〝喋る〟
それを陽気と感じるか、うるさいと受け止めるかは個人の自由だが、同居嫁である私の率直な印象は「うるさい」に他ならない。
結婚して同居して、その頃の私は姑に〝いい意味で〟気を遣っていた。愛する旦那を産み育てた人に敬意と感謝の意を少なからず持っていた。もちろん、一般論としての高齢者への敬意だって持ち合わせていた。旦那が仕事でいない夕食時などの……同居嫁としては憂鬱なシチュエーションのときも、なるべく和気あいあいとした雰囲気をかもし出すべく、料理中から話題を考えたりして。でもね、はっきり言って、疲れてしまったわけです。
姑は、とにかく自分がしゃべりたいと思った事は、話してしまわないと気がすまない人。 そして、自分さえ言いたいことを言ってしまえば、他の人の話はどうでもいいことになる。言わせてもらえば‥本当につまらない姑の話に一生懸命うなづいてあげているというのに、嫁が口にすることは「ああ、そう」って感じ。
そもそも、私と姑との関係にはつながる要素がない。趣味にも何にも共通点がないのに、盛り上がるような話題なんてあるわけがないのだ。だとしても、そこは大人なのだからそれなりの「受け答え」をお互いにしても良いのではないかと思う。
そしていちばん憤りを感じるのは、やっと自分の気持ちが表現できるようになってきたばかりの子供が親である私や旦那に対して一生懸命話しているのに、割り込んできてクダラナイことを喋り始める彼女の態度である!
こればかりには旦那も怒る。
「子供の話が先だろう!」 とか「子供がしゃべってるのに何だよ!」とか…言ってくれてもいっこうに改善されることはない。
子供が喋っているときに割り込む姑の悪態……。
以前は、姑に対して"困るんです"的な伝え方をソフトな口調で言いながら、その一方で子供に対して、「ごめんね、もういちど言ってね?」と、言っていた私だが、先日はついに我慢しきれん!ということで皮肉を込めて言ってやった……。「ゴメンねー! おばあちゃんが話してきたから聞こえなかったの」
これにはさすがの姑も、嫁の悪感情をくみとったようだ。スッと黙るとどこかに消えてしまった。同居嫁とはデフォルトで立場の弱い属性に違いないが、このように、一年に何度かは「勝った気になれる瞬間」があるのだ。
ともあれ、そんな姑が相手だから、用事がない限り嫁から姑に話し掛ける機会はない。そうは言っても、ひとつ屋根の下で生活を共にする以上、言語コミュニケーションがなければ日常そのものが破綻してしまうのはあきらかだ。そこで私は「言い方」にフォーカスをあてることが多い。
「――してください」ではなく「悪いけれど――してくれますか?」
これが私の基本形である。
姑と嫁の物理的な立場の強弱、つまり、どう頑張っても嫁という立場は姑よりも弱いのである。だからムダに強がろう上位に立とうと考えても仕方が無い。嫁と姑の人間関係をガチンコ勝負で相対するにじゃなく、同居嫁としての立ち回り方に工夫する…そこがやはりポイントだと考えている。
「――してください」と嫁から姑に一方進行的に意思を投げかけるのではなく「悪いけれど――してくれますか?」と、本当だったらしたくないんだよと考えるであろう姑の感情を先取りしていることを明確にしたうえで、目的となる要求をお願いするというスタンス。これがポントだと思っている。
にもかかわらず……姑の仕掛ける〝地雷〟を踏んでしまうことがあるのだ。
一般的に考えてどちらでも変わらないと思えるような事でも、姑によってはそれが気に入らない言われ方がある。
姑に、外出するから昼食と夕食の用意を確認するときの話だ。
「エーッと、お昼と夜のご飯はいらないんだよね?」と聞くと、たちまち不機嫌になる。この現象……はじめは訳がわからなかった。べつに、気にさわるようなことは言っていないはずだし、炊事担当としては無駄なことはしたくないから確認は必要。自分の用事で出かけるのに、それも嫌々行くようなことではないのに、この人は何で機嫌が悪くなるんだろう?と思っていた。気付かぬままに何度も同じことを繰り返していたある日、ひょっとして‥?と思い、言い方を変えてみたのだ。
「明日は朝ご飯だけ食べるんだよね?」
「そうね、そうなるわ……」
……(ー"ー;
言い方を変えただけで不機嫌にはならずにすんだ。なんだコイツは? と正直感じたが、それ以来、「――だけ食べる?」という言い方をしていれば機嫌を損なうことはない。
私としては、どこが違うのよ?バカバカしいと思うし、姑自身、人には「お昼はいらないんだろう?」と平気で聞いてくるくせに、自分がそう言われるのは我慢できないらしい。本当にもう何なのよ、という感じだけど、あえて“地雷”を踏むこともないので、機嫌を損ねないようにしている。
結局、こんな神経をつかったり立ち回り方に工夫したり地雷を踏まないように余計なストレスを抱えたり…どれもこれも、物理的に姑との強弱関係が生み出す〝同居嫁の弱さ〟であろうと思う。